広島地方裁判所 平成3年(わ)274号 判決 1997年5月29日
本店所在地
広島県呉市広白石四丁目一四番一号
株式会社 協和しゅんせつ
(右代表者 金川誠)
本店所在地
広島県呉市阿賀北七丁目三番四号
株式会社 芳信建設
(右代表者 紙朝則)
本籍
広島県呉市広白岳四丁目一三二一六番地
住所
広島市南区宇品海岸一丁目一〇番七-六〇六号
会社役員
大髙民朗
昭和一四年一月二六日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社協和しゅんせつを罰金八〇〇〇万円に、被告人株式会社芳信建設を罰金三〇〇〇万円に、被告人大髙民朗を懲役一年八月にそれぞれ処する。
被告人大髙民朗に対し、未決勾留日数中一二〇日をその刑に算入する。
訴訟費用は、被告人三名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社協和しゅんせつは、広島県呉市広白石四丁目一四番一号に本店を置き、港湾土木工事等の事業を営む株式会社であり、被告人株式会社芳信建設は、同市阿賀北七丁目三番四号に本店を置き、土木建築請負業等の事業を営む株式会社であり、被告人大髙民朗は、右両会社の実質上の代表者(平成三年三月二九日以前は被告人株式会社芳信建設代表取締役)として、両会社の業務全般を統括していたものであるが、
第一 被告人大髙民朗は、被告人株式会社協和しゅんせつの現場作業員大本俊男、同経理事務員西本タツヨと共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
一 昭和六〇年七月一日から同六一年六月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が一億一九三五万七六八二円あったにもかかわらず、公表経理上、右大本俊男に対する材料費、外注費等の架空工事原価を計上し、同原価の支払いとして振り出した同会社振出名義の小切手等を換金し、呉中央信用金庫等に簿外の預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六一年八月二六日、同市西中央二丁目一番二一号所在の呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一五四六万三四五二円で、これに対する法人税額が五五二万二一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五〇五〇万八二〇〇円と右申告税額との差額四四九八万六一〇〇円を免れ、
二 昭和六一年七月一日から同六二年六月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が二億〇六七七万七五四一円あったにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿した上、昭和六二年八月二九日、前記呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七四六万二九九九円で、これに対する法人税額が二〇七万二五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八五七二万〇二〇〇円と右申告税額との差額八三六四万七七〇〇円を免れ、
三 昭和六二年七月一日から同六三年六月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が三億二五六〇万二五二四円あったにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿した上、昭和六三年八月二二日、前記呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一一二〇万六五五六円で、これに対する法人税額が三六二万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億三五六七万二三〇〇円と右申告税額との差額一億三二〇四万六四〇〇円を免れ、
四 昭和六三年七月一日から平成元年六月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が一億八二六六万六五七三円あったにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿した上、平成元年八月三〇日、前記呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三七一二万七〇一九円で、これに対する法人税額が一四五二万二八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七五六四万九二〇〇円と右申告税額との差額六一一二万六四〇〇円を免れ、
第二 被告人大髙民朗は、被告人株式会社協和しゅんせつの現場作業員大本俊男、被告人株式会社芳信建設の経理事務員菅美由紀と共謀の上、被告人株式会社芳信建設の業務に関し、法人税を免れようと企て、
一 昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が二億四一一二万六七一一円であったにもかかわらず、公表経理上、右大本俊男に対する材料費、外注費等の架空工事原価を計上し、同原価の支払いとして振り出した同会社振出名義の小切手等を換金し、呉中央信用金庫等に簿外の預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六一年一一月二八日、前記呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五六五万八三〇〇円で、これに対する法人税額が一〇〇万九一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億〇三〇三万六六〇〇円と右申告税額との差額一億〇二〇二万七五〇〇円を免れ、
二 昭和六一年一〇月一日から同六二年九月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が一三二二万五七七一円あったにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿した上、昭和六二年一一月二八日、前記呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五六〇万七九六九円で、これに対する法人税額が一三二万九二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四二四万一六〇〇円と右申告税額との差額二九一万二四〇〇円を免れ、
三 昭和六二年一〇月一日から同六三年九月三〇日までの事業年度における右会社の実際所得金額が八五六五万五九三〇円あったにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿した上、昭和六三年一一月二九日、前記呉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九三九万六一三四円で、これに対する法人税額が二六七万四九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三四七〇万三六〇〇円と右申告税額との差額三二〇二万八七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
括弧内の漢数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求の証拠番号を示す。
判示全事実について
一 被告人大髙民朗の当公判廷における供述
一 第八回ないし第一六回、第二一回ないし第二四回各公判調書中の被告人大髙民朗の各供述部分
一 第七回及び第八回公判調書中の被告人株式会社芳信建設代表者新居勝俊の各供述部分
一 第五回公判調書中の証人川金美智雄の供述部分
一 第六回公判調書中の証人吉井康二郎の供述部分
一 第二五回ないし第二七回公判調書中の証人末岡正明の各供述部分
一 三谷郁夫の検察官に対する供述調書(四一七)
一 紙朝則の大蔵事務官に対する質問てん末書(四一六、ただし、不同意部分を除く。)
一 捜査状況報告書(四〇七)
一 押収してある「土木工事業」と題する書面一枚(四〇三、平成三年押第九九号の4)
一 押収してある「しゅんせつ工事業」と題する書面一枚(四〇四、平成三年押第九九号の5)
一 押収してある「舗装工事」と題する書面一枚(四〇五、平成三年押第九九号の6)
一 押収してある「工事原価表(決算)」と題する書面二枚(四〇六、平成三年押第九九号の7)
判示冒頭、第一の冒頭、一ないし三、第二の各事実について
一 被告人大髙民朗の検察官に対する供述調書二通(一六一〔ただし、被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕、二六六〔ただし、被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。〕)
判示冒頭の事実について
一 商業登記簿謄本二通(三三〔ただし、被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕、二〇五〔ただし、被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。〕)
判示第一の冒頭、一ないし三、第二の各事実について
一 第二回公判調書中の被告人大髙民朗の供述部分
判示第一の一ないし三、第二の各事実について
一 被告人大髙民朗の検察官に対する各供述調書(一六二ないし一七八〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕、二六七ないし二八三〔ただし、いずれも被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。〕)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(一四四ないし一四六、一五〇ないし一五二、一五四、一五五、一五七、一五九、一六〇、ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。)
一 濱孝雅の検察官に対する供述調書(四七)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四六)〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕
一 倉本朋招の検察官に対する供述調書(七三)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(七二)〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕
一 大本政雄の検察官に対する各供述調書(七七、七八)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(七五、七六)〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕
一 大髙紘子の検察官に対する供述調書(一一九)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(一一八)〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕
一 尾久葉敏之(五九)、難波憲治(六四)、平本真人(六五)、大野孝(六六)、山根昌治(六七、六八)、新田一正(六九)、西勝三(七〇)、光川潔(七一)、三浦昭夫(七四)、小路一夫(八二)及び岡本幸男(九七)の検察官に対する各供述調書〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕
一 砂川昭治(五一)、池田信也(五六)、岡本清次(五七)、近藤博明(七九)、菅奈緒美(八〇)、小西佐和子(八一)、大本小春(一一二)及び門田邦子(一二二)の大蔵事務官に対する各質問てん末書〔ただし、いずれも被告人株式会社芳信建設の関係を除く。〕
一 木村保(二三六)、木村イケヨ(二三七)及び山口克由(二三八)の大蔵事務官に対する各質問てん末書〔ただし、いずれも被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。〕
一 大本俊男の司法警察員に対する供述調書謄本(一一一、ただし、被告人株式会社芳信建設の関係を除く。)
一 電話報告書(二六二、ただし、被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。)
判示第一の各事実について
一 三谷郁夫の大蔵事務官に対する質問てん末書(四一一)
一 証明書二通(四一二、四一三)
判示第一の一ないし三の各事実について
一 被告人大髙民朗の大蔵事務官に対する各質問てん末書(一四〇ないし一四三、一四七ないし一四九、一五三、一五六、一五八)
一 中原幹夫の検察官に対する供述調書(三七)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(三五、三六)
一 長通一修の検察官に対する供述調書(四一)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四〇)
一 徳重秀成の検察官に対する供述調書(四三)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四二)
一 橋本眞一の検察官に対する供述調書(四五)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四四)
一 北原正清の検察官に対する供述調書(四九)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四八)
一 岡田聖の検察官に対する供述調書(五五)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(五四)
一 保岡隆の検察官に対する各供述調書(八六ないし八九)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(八三ないし八五)
一 金川誠の検察官に対する供述調書(九二)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(九〇、九一)
一 吉井康二郎の検察官に対する各供述調書(一〇三ないし一〇八)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(九九ないし一〇二)
一 川金美智雄の検察官に対する供述調書(一一〇)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(一〇九)
一 大本小春の検察官に対する各供述調書(一一六、一一七)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(一一三ないし一一五)
一 山本教重(三八、三九)、砂川祐子(五二)、砂川英治(五三)、濱岡宏保(五八)、岡田健二(九三、九四)、応本裕二(九五)、岡本幸男(九六、九八)、西本智子(一二五)、西本タツヨ(一二八ないし一三九)及び田中寿美(二三五、ただし、被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。)の検察官に対する各供述調書
一 坪井秀則(一二〇)及び福島英幸(一二四)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 材料費調査書(六)
一 労務費調査書(七)
一 外注費調査書(八)
一 現場監督報酬調査書(九)
一 海面使用料調査書(一〇)
一 期首未成工事支出金調査書(一一)
一 期末未成工事支出金調査書(一二)
一 売上原価調査書(一三)
一 役員報酬調査書(一四)
一 従業員給料調査書(一五)
一 雑費調査書(一六)
一 受取利息調査書(一七)
一 受取配当金調査書(一八)
一 受取地代調査書(一九)
一 雑収入調査書(二〇)
一 支払利息割引料調査書(二一)
一 株式売却損益調査書(二二)
一 県民税利子割の損金不算入額調査書(二三)
一 交際費の損金不算入額調査書(二四)
一 事業税認定損調査書(二五)
一 未払源泉所得税調査書(二六)
一 臨検捜索てん末書(二九)
一 差押てん末書(三〇)
一 現金有価証券等現在高検査てん末書(三一)
一 調査事績報告書三通(二〇六ないし二〇八、ただし、被告人株式会社協和しゅんせつの関係を除く。)
一 押収してある株式会社協和しゅんせつ法人税決議書綴一綴(二八、平成三年押第九九号の1)
判示第一の一の事実について
一 脱税額計算書(二)
判示第一の二、同三の事実について
一 調査事績報告書二通(四〇九、四一〇)
判示第一の二の事実について
一 脱税額計算書(三)
判示第一の三の事実について
一 脱税額計算書(四)
一 売上高調査書(五)
判示第一の冒頭、四の事実について
一 被告人大髙民朗の検察官に対する供述調書(四〇一)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四〇〇)
判示第一の四の事実について
一 中原幹夫の検察官に対する供述調書(三〇六)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(三〇四、三〇五)
一 長通一修の検察官に対する供述調書(三一〇)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三〇九)
一 徳重秀成の検察官に対する供述調書(三一二)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三一一)
一 橋本眞一の検察官に対する供述調書(三一四)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三一三)
一 濱孝雅の検察官に対する供述調書(三一六)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三一五)
一 北原正清の検察官に対する供述調書(三一八)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三一七)
一 岡田聖の検察官に対する供述調書(三二四)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三二三)
一 倉本朋招の検察官に対する供述調書(三四〇)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三三九)
一 大本政雄の検察官に対する各供述調書(三四四、三四五)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(三四二、三四三)
一 金川誠の検察官に対する供述調書(三五二)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(三五〇、三五一)
一 川金美智雄の検察官に対する供述調書(三六〇)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三五九)
一 大本小春の検察官に対する各供述調書(三六六、三六七)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(三六二ないし三六五)
一 大髙紘子の検察官に対する供述調書(三六九)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三六八)
一 吉井康二郎の検察官に対する各供述調書(三八六ないし三九八)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三八四)
一 山本教重(三〇七、三〇八)、砂川祐子(三二一)、砂川英治(三二二)、尾久葉敏之(三二九)、難波憲治(三三一)、平本真人(三三二)、大野孝(三三三)、山根昌治(三三四、三三五)、新田一正(三三六)、西勝三(三三七)、光川潔(三三八)、三浦昭夫(三四一)、小路一夫(三四九)、岡田健二(三五三、三五四)、応本裕二(三五五)、岡本幸男(三五六ないし三五八)及び西本タツヨ(三七二ないし三八三)の検察官に対する各供述調書
一 砂川昭治(三二〇)、池田信也(三二五)、岡本清次(三二六、三二七)、西崎一郎(三二八)、近藤博明(三四六)、菅奈緒美(三四七)、小西佐和子(三四八)、門田邦子(三七〇)及び福島英幸(三七一)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大本俊男の司法警察員に対する供述調書謄本(三六一)
一 電話報告書(三九九)
一 脱税額計算書(二八五)
一 材料費調査書(二八六)
一 外注費調査書(二八七)
一 現場監督報酬調査書(二八八)
一 雑費調査書(二八九)
一 受取利息調査書(二九〇)
一 受取配当金調査書(二九一)
一 受取地代調査書(二九二)
一 支払利息割引料調査書(二九三)
一 株式売却益調査書(二九四)
一 損金額算入道府県民税利子割調査書(二九五)
一 事業税認定損調査書(二九六)
一 未払源泉所得税調査書(二九七)
一 調査事績報告書(三〇〇)
一 臨検捜索てん末書(三〇一)
一 差押てん末書(三〇二)
一 現金有価証券等現在高検査てん末書(三〇三)
一 押収してある株式会社協和しゅんせつ法人税確定申告書一綴(二九九、平成三年押第九九号の3)
判示第二の各事実について
一 被告人大髙民朗の大蔵事務官に対する各質問てん末書(二六三ないし二六五)
一 新居勝俊の検察官に対する各供述調書(二二二ないし二二五)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(二一八ないし二二一)
一 新居薫の検察官に対する供述調書(二三三)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(二三二)
一 藤井一成(二一〇)、芳信雅之(二一六)、紙朝則(二一七)、十河和明(二二六)、吉松陽子(二二七)、杉本幸次郎(二二八)、吉松稔(二二九)、岡光英夫(二三〇)、岡田健二(二三一)、大上賢治(二三四)、菅美由紀(二三九ないし二四六)及び吉井康二郎(二四八ないし二六〇)の検察官に対する各供述調書
一 小原光男(二一一)、吉本厚水(二一二)、杉本強(二一三)、西岡安己(二一四)及び塩田重雄(二一五)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 材料費調査書(一八四)
一 給料賃金調査書(一八五)
一 外注費調査書(一八六)
一 期首仕掛品棚卸高調査書(一八七)
一 期末仕掛品棚卸高調査書(一八八)
一 役員賞与調査書(一八九)
一 給与手当調査書(一九〇)
一 接待交際費調査書(一九一)
一 受取利息調査書(一九二)
一 受取配当金調査書(一九三)
一 支払利息割引料調査書(一九四)
一 株式売却損調査書(一九五)
一 県民税利子割の損金不算入額調査書(一九六)
一 減価償却超過額調査書(一九七)
一 交際費の損金不算入額調査書(一九八)
一 役員賞与損金不算入額調査書(一九九)
一 欠損金の当期控除額調査書(二〇〇)
一 事業税認定損調査書(二〇一)
一 未払源泉所得税調査書(二〇二)
一 調査事績報告書(二〇九)
一 捜査報告書(四〇二)
一 証明書(四一四)
一 押収してある株式会社芳信建設法人税決議書綴一綴(二〇四、平成三年押第九九号の2)
判示第二の一の事実について
一 脱税額計算書(一八一)
判示第二の二の事実について
一 脱税額計算書(一八二)
判示第二の三の事実について
一 脱税額計算書(一八三)
(争点に対する判断)
一 検察官は、本件法人税のほ脱にあっては、そのほとんどの部分が、被告人大髙民朗において、被告人株式会社協和しゅんせつ及び被告人株式会社芳信建設の業務に関し、被告人株式会社協和しゅんせつの現場作業員である大本俊男を下請業者として仮装し、同人に対する材料費等の架空工事原価を計上して費用を過大計上する方法により、所得を秘匿して法人税を免れたと主張している。
これに対し、弁護人は、確かに右のように架空工事原価を計上した部分もあるが、それは株式会社芳信建設分のほんの一部についてのみであり、同社分のその余の部分及び被告人株式会社協和しゅんせつ分の全てについては、大本俊男に対し下請契約に基づく正当な請負代金を支払ったものであるから、これらについては架空工事原価を計上したものではないと主張し、被告人大髙民朗も当公判廷においてこれに沿う供述をしている。
そこで、本件ほ脱事件の争点は、被告人大髙民朗が、本件各工事について、被告人株式会社協和しゅんせつ及び被告人株式会社芳信建設の業務に関し架空工事原価を計上したものであるか、あるいは、大本俊男に正当な請負代金を支払ったものであるかにあるので、以下、この点について検討する。
二 関係各証拠によれば、次の事実が認められる。
1(一) 被告人大髙民朗(以下、「被告人大髙」ともいう。)は、昭和三三年四月広島県職員となり、呉土木事務所等に勤務した後、昭和五四年七月広島県職員を退職し、広島県安芸郡音戸町に株式会社協和産業を設立して、その代表取締役に就任した。株式会社協和産業は、昭和五七年四月商号を株式会社協和しゅんせつ(以下「協和しゅんせつ」ともいう)に変更するとともに、本店を広島県呉市に移転した。協和しゅんせつは、港湾土木事業等を営む株式会社である。
(二) 被告人大髙は、昭和五七年一〇月株式会社芳信建設(以下、「芳信建設」ともいう。)の代表取締役芳信昭彦が死亡したことから、その遺族に懇願されて、同年一一月芳信建設の代表取締役に就任し、同時に協和しゅんせつの代表取締役を辞任した。芳信建設は呉市阿賀北七丁目に本店を置き、土木建築請負業等の事業を営む株式会社である。
(三) 被告人大髙は、協和しゅんせつの代表取締役を辞任した後も同社の実質上の代表者としての地位を継続し、本件当時協和しゅんせつ及び芳信建設の業務全般を統括していた。
2(一) 大本俊男(以下、「大本」という。)は、広島県呉市内で左官をし、妻小春との結婚に当たり被告人大髙に仲人をしてもらうなど被告人大髙と懇意にしていたものであるが、京都で左官として稼働していた昭和五七年ころ、仕事の先行きに不安を抱き、被告人大髙と相談の上、呉に帰った。大本は、そのころから被告人大髙が経営する協和しゅんせつで作業員として働くようになり、その後、現場監督として働き、毎月三〇万円の支給を受けていた。
(二) 協和しゅんせつの行う港湾土木工事の作業は、船の誘導、海底までの計測、砂や石等の海への投入場所の指示、砂や石等の検収などであったが、工事現場での現場監督の仕事は、大本のほか、金川誠及び応本裕二がしていた。大本の仕事は、協和しゅんせつの従業員である金川誠や応本裕二と同僚であって、金川誠らが大本を監督するといったことはなかった。大本は、右のように、その稼働状況が協和しゅんせつの従業員と同様であったほか、元請け先に提出する「新規入場時教育誓約書」等の書類にも協和しゅんせつの従業員として署名するなどしており、周囲の者は、大本を協和しゅんせつの従業員と思っていた。
3 大本は、昭和五八年ころ、大本土木の名称を使用し始め、昭和五九年九月広島県知事から一般建設業の許可を受けたが、これは、被告人大髙が協和しゅんせつの経理事務員西本タツヨ(以下、「西本」という。)に内容虚偽の実務経験証明書を作成させて申請したものであった。大本土木には事務所がない上、従業員もおらず、帳簿類も大本土木宛の請求書や大本土木名義の領収証控え等の書類もなかった。
4 本件各工事については、大本と協和しゅんせつあるいは芳信建設との間の契約書等これを直接裏付ける書類がないのみならず、右各工事に必要な砂や石等の材料の発注は全て協和しゅんせつにおいて行い、その代金も全て協和しゅんせつが直接材料納入業者に支払い、大本は右のような発注や支払い等を行ったことがなかった。また、右各工事の契約に至る折衝やその間の会計処理も大本が行ったことはなく、全て協和しゅんせつが行っていた。
5 本件のような港湾土木工事では、砂や石等の材料が海に投入された場合、投入された材料の数量を把握するため検収がなされ、これが検収実績として記録されるところ、大本土木以外の業者が投入したとして請求した材料については検収実績があったが、大本土木が投入したとして請求した材料については検収実績がなかった。また、各工事の砂や石等の設計数量と大本土木を除いた業者からの砂や石等の請求数量はほぼ一致していた。
6(一)(1) 被告人大髙は、昭和六一年初めころから、協和しゅんせつの本町事務所において、協和しゅんせつの経理事務員西本に各工事の粗利益を聞くようになり、西本が元帳を見ながら各工事の粗利益を計算して紙に書き出すと、被告人大髙は、これを見ながら大本土木の請求額とその内訳を適当に決め、これを西本がメモして保管し、その後大本が右事務所へ来て右メモに基づいて大本土木から協和しゅんせつに対する内容虚偽の請求書を書いていた。ときには、被告人大髙が右メモを持ち帰り、大本が請求書を書いて来ることもあった。
(2) 協和しゅんせつでは、通常、営業を担当していた保岡隆が下請け先から請求書を受け取り、これをまとめて協和しゅんせつの本町事務所に持って行って西本に渡し、支払いはこれに基づき振込でしていたが、大本土木の場合は、ほとんど大本が直接請求書を西本に渡し、被告人大髙の指示により小切手で支払っていた。また、他の取引先には、請求書が来た翌日にこれに記載された金額を支払っていたが、大本土木の場合は、その請求時期が不規則である上、被告人大髙が事前に支払う余裕があるかどうかの確認をして小切手を切るよう指示していた。
(二)(1) 被告人大髙は、昭和六一年から同六三年までの各事業年度の法人税の申告前に芳信建設の利益額について関与税理士から説明を受けた後、芳信建設の経理事務員の菅美由紀に対し、大本土木に対する架空の工事原価を計上して利益を圧縮するよう指示し、菅美由紀は、右指示に基づき、大本土木に対し材料費、外注費を支払ったように虚偽の振替伝票を作成し、これに対応する虚偽の請求書により被告人大髙に小切手や約束手形を渡していた。また、被告人大髙は、昭和六一年から同六三年までの毎年八月ころ、夏期の賞与資金を捻出するため、右同様菅美由紀に指示し、同人は大本土木に対する材料費を支払ったように虚偽の振替伝票を作成し、これに対応する虚偽の請求書によりこれを処理していた。
(2) 芳信建設では、通常下請けに出す場合、新居勝俊業務課長の営業結果の報告に基づき、菅美由紀が下請け金額を計算するなどしてこれを決めていたのに、大本土木の場合は、被告人大髙が一方的に下請け金額を決めていた。菅美由紀は、大本土木以外の請求書の場合は、請求書に記載してある材料費等が真実請求書記載の各工事現場に納入されたかどうかチェックしていたが、大本土木の請求書については、このようなチェックは全くしていなかった。
7 大本は、昭和五九年一二月ころから国税局による査察が入って姿を晦ました平成元年四月まで、妻小春に毎月生活費として二五万円を渡していたが、小春は、その中から相当額の貯金をしていたことなどから、夫婦及び子供三人の生活は質素なものであった。大本は、競輪を楽しみにしていたが、競輪に出掛ける際、一か月に二、三回小春から一万円を貰っていた。また、大本は、平成元年四月ころ、約一九〇〇万円で家を新築したが、そのために住宅金融公庫から一〇〇〇万円余りを、中央信用金庫から七〇〇万円余りを借り入れた。このように、大本が億単位の大金を扱っていた形跡は全くなかった。
8(一) 被告人大髙は、呉相互銀行(現在せとうち銀行)阿賀支店の支店長代理新田一正に依頼して、昭和六〇年二月から同年一一月まで、合計五五口一億六五〇〇万円のマル優借名定期預金をしたが、その際、現金、預金証書、印鑑の授受はいずれも被告人大髙自身が行った。新田一正は、昭和六一年三月から五月にかけて、仮名で被告人大髙の金地金の取引も担当したが、その取引においても、被告人大髙から現金を受け取って金地金の購入手続をし、金地金保護預り証と印鑑を被告人大髙に直接手渡していた。これらの取引においては、現金が被告人大髙、協和しゅんせつ及び芳信建設以外のものに属することを窺わせる話は全くなく、また、大本が立ち会ったこともなかった。新田一正の後任者である同銀行支店長代理西勝三は、昭和六一年六月ころ、新田一正から事務を引き継ぐ際、六、七〇人の名前を記載した三〇〇万円単位の預金メモを示され、「これは大髙社長個人の預金です。」と言われた。西勝三は、昭和六三年四月、被告人大髙と仮名で合計三口三六〇〇万円余りの金地金の取引をしたが、右取引の際、被告人大髙から定期預金証書と印鑑を受け取り、これを右支店で現金化した上、金地金の購入手続をし、金地金保護預り証と印鑑等を被告人大髙に直接手渡した。
(二) 呉信用金庫中央支店支店長代理平本真人は、昭和六三年六、七月ころ、被告人大髙から他の金融機関の定期預金証書(金額合計七ないし八〇〇〇万円)を預かり、これらを解約した上、同信用金庫の五か所の支店に分散して金利の高い市場金利連動型預金をし、被告人大髙に同預金証書を手渡した。これらの証書の授受の際、大本あるいは大本の関係者が同席したことはなかった。
(三) 被告人大髙は、昭和六二年五月初旬から、丸三証券株式会社呉支店と株取引を開始したが、その取引は全て借名あるいは仮名名義の取引であり、売りつけ、買いつけともすべて被告人大髙が指示した。
9 平成元年四月一八日、被告人大髙方に国税局による査察が入ったとき、被告人大髙は、定期預金証書五〇通(三億六〇〇〇万円余り)、金預かり証書三通(四五六〇万円余り)等を長女の鞄の中に入れた隠そうとしたが、国税局の係官に見つかり、押収された。なお、大本は、査察が入った平成元年四月一八日から現在に至るまで行方を晦ましている。
以上の各事実が認められる。
三 そこで、各事実を基に検討する。
まず、右二5のとおり、本件のような港湾土木工事では、砂や石等の材料が海に投入された場合、投入された材料の数量を把握するため検収がなされ、これが検収実績として記録されるのであるが、大本土木以外の業者が投入したとして請求した材料については検収実績があったが、大本土木が投入したとして請求した材料については検収実績がなかったのであって、このことからすると、大本土木の請求した材料は、実際には工事現場に納入されていなかったといわなければならない。また、右二5のとおり、各工事の砂や石等の設計数量と大本土木を除いた業者からの砂や石等の請求数量はほぼ一致していたのであって、このことからすると、大本土木を除いた業者からの材料で工事は完成していたと認められ、これらの事実は、本件材料費の計上が、架空であることをよく裏付けている。
次に、大本が真実協和しゅんせつや芳信建設から本件各工事を下請けしたのであれば、大本が材料納入業者への発注や支払いをし、また、発注に至る交渉や会計処理等を行うのが当然であるのに、右二4のとおり、大本はこれらを行ったことがなく、材料納入業者との交渉、材料の発注や支払いのほか、会計処理に至るまで全て協和しゅんせつが行っていたのであって、このような本件工事についての交渉、発注、支払い、会計処理等の状況は、大本が下請けをしたのではなく、協和しゅんせつ自体が本件各工事を行ったことを裏付ける有力な事実であるといわなければならない。
また、右二6(一)及び同(二)(2)のような協和しゅんせつや芳信建設における下請け代金の決め方、請求と支払いの方法等からすると、協和しゅんせつと芳信建設は、大本土木については、工事代金の決定、支払い等について、他の取引先の場合とかなり異なった取扱いをし、しかも、被告人大髙がこれに相当深く関与していることが明らかであり、このことは、被告人大髙が架空の工事原価を計上している旨の検察官の主張に沿うものである。また、右6(二)(1)の事実に至っては、被告人大髙が、芳信建設において、本件各工事に関し、架空の工事原価を計上し、大本土木を利用して所得を秘匿していたことを直接裏付けるものである。
さらに、右二7のとおり、大本及びその一家の日常生活は質素で、大本自身の小遣いもさほど潤沢ではなく、むしろ不自由な状態であった上、自宅を新築するために住宅金融公庫等から資金のほとんどを借り入れるなど、大本が億単位の大金を扱っていた形跡は全くなかったものである。逆に、右二8及び9の事実に徴すると、被告人大髙は、四億円を超える多額の仮名、借名預金等を管理し、金地金や株の取引等をしていたと認められるのであって、このような大本及びその一家の生活状況、経済状況、被告人大髙による仮名、借名預金の管理状況等によると、右四億円を超える多額の仮名、借名預金等は、協和しゅんせつあるいは芳信建設に帰属することを示しているといわなければならない。
加えて、大本は、右二2のとおり、本件当時、協和しゅんせつにおいて、現場監督として工事現場で砂や石等の投入場所を指示するなどの仕事をし、毎月三〇万円の支給を受けていたが、その稼働状況は、従業員である金川誠及び応本裕二と同様であり、周囲の者からも協和しゅんせつの従業員と思われていたものである。そして、大本は、右二3のとおり、大本土木の名称を使用していたものの、従業員や事務所を有していなかったのみならず、帳簿類も大本土木宛の請求書や大本土木名義の領収証控え等の書類もなく、港湾土木工事の下請け業者としての実体を何ら備えていなかったもので、このような大本の協和しゅんせつにおける稼働状況及び大本土木の実体は、本件各工事代金が大本土木への請負代金でなかった旨の検察官の主張に沿うものである。
右のとおりであって、前記二に認定した本件各工事の工事現場への材料納入状況、本件各工事についての発注、経理事務等の状況、協和しゅせつ及び芳信建設における下請け代金の決め方、請求及び支払い状況、大本及びその家族の生活状況、被告人大髙による仮名預金等の管理・運用状況、大本の協和しゅんせつ内における稼働状況、大本土木の実体等の各事実を総合すれば、本件各工事代金は、協和しゅんせつあるいは芳信建設が大本に正当な請負代金として支払ったものではなく、被告人大髙が協和しゅんせつ及び芳信建設の経理事務員に大本の名で架空の経費を計上させていたものであり、被告人大髙は、右経理事務員らと共謀し、架空経費を計上して本件協和しゅんせつ及び芳信建設の法人税をほ脱していたと認めるに十分である。
四 これに対し、弁護人は種々主張しているので、以下、その主な点について判断する。
1 弁護人は、大本は昭和五九年度分から同六三年度分まで五年間にわたり、呉税務署に対して、売上金額の平均を年に二億円余りとして所得税の確定申告をし、下請け業者として営業収入があったことを自認しているところ、この事実は大本が下請け業者であったことを自認しているところ、この事実は大本が下請け業者であることを裏付けるものであると主張する。
しかしながら、西本の検察官に対する供述調書等関係各証拠によれば、大本は、昭和五九年度分から昭和六三年度分までの確定申告書の下書きを西本に示してその清書を依頼していたところ、西本は、その都度被告人大髙に電話で右各確定申告書を書いていいかどうか聞き、被告人大髙は「書いてやれ。」などと言って指示していたこと、昭和六一年三月一〇日過ぎころ、大本が西本に対し、昭和六〇年度分の大本土木の確定申告書の清書を依頼した際、西本が右確定申告書の内容がおかしい旨言ったところ、大本は、「いいからそのとおり書いておけ。社長から書いてやれと言われているだろうが。」と言ったこと、被告人大髙は、大本の昭和六〇年分の確定申告書を提出することを協和しゅんせつの取締役であった岡本幸男に頼み、岡本幸男は、被告人大髙からこれを受け取り、知人の尾久葉敏之に頼んで呉税務署に提出したこと、西本は、大本土木の税金も振り込んでいたが、その際、被告人大髙がその資金を持ってきたことが、一、二回あったことが認められ、右各事実からすると、大本土木の確定申告には被告人大髙が深く関与し、税務工作をしていることが窺われるから、弁護人主張の確定申告があるからといって、そのことから大本が下請け業者であることが裏付けられるとはいえない。
2 弁護人は、協和しゅんせつから大本に毎月支給されていた三〇万円は、大本が毎月決まった日に家計費として妻小春に渡すため、被告人大髙から毎月給料日に借用し、下請け代金清算時に清算されていたものであって、大本に対する給料ではない旨主張する。
しかしながら、大本が真実協和しゅんせつや芳信建設から多額の請負代金を受け取り、しかも、その中から前認定のような多額の仮名あるいは借名預金等をしていたとすると、協和しゅんせつから長期間にわたって月額三〇万円を借り続ける必要性はどこにあったか大いに疑問がある上、下請け代金で清算をしていたというが、これを裏付ける資料がないのも理解し難い。これらの点に、三〇万円については、毎月他の従業員と同じ二五日の給料日に他の従業員とほぼ同様に支給されていたこと、大本は、昭和六二年七月一一日船舶安全法違反事件で海上保安官に取り調べられた際、協和建設株式会社に勤務し、月収が二五万円程度ある旨述べていること、西本作成の昭和六二年四月二五日分の協和しゅんせつの従業員等に対する給料支払いに関するメモには、他の役員・従業員と同様に「大本三〇万円」との記載があることなどからすると、大本に対する月額三〇万円の支給は、給料とみるのが相当である。
3 弁護人は、大本には一括下請けさせたものであるが、一括下請けは建設業法で禁止されていることなどから、これをカムフラージュするために、大本を従業員のように振る舞わせていたものである旨主張する。
しかしながら、大蔵事務官末岡正明は第二六回公判において「一括下請けは多数例があり、一括下請けをカムフラージュする必要性があるとは全然感じない。」と供述しているところであるが、この点はさて惜くとしても、カムフラージュしていた旨の主張は、実際には大本が下請けをし、工事をしていることを前提としているところ、本件各工事の材料について、検収実績がなく、大本土木が請求した材料は実際には工事現場に納入されていなかったといえること、また、各工事の砂や石等の設計数量と大本土木を除いた業者からの請求書に記載されている砂や石等の請求数量はほぼ一致していたことから、大本土木を除いた業者からの材料で工事は完成していたと認められることは前記のとおりであり、これらからすると、実際には大本土木は本件各工事をしていないというべきであるから、本件各工事について、一括下請けをカムフラージュしていたとの弁護人の主張は理由がない。
4 弁護人は、大本への支払いを経費として認めなければ、工事の粗利益率が高くなり過ぎて不合理である旨主張する。
確かに、大蔵事務官作成の調査事績報告書によれば、各工事について大本に対する支払い額を除いた粗利益率の相当高いものがあり、中には一〇〇パーセントとなっているものもある。
しかしながら、例えば労務費については、各工事ごとの金額が特定しにくいため各工事に振り分けられず、零で記載されたものがあるなど、工事ごとに全ての経費が正確に計上されているものとはいえないため、一〇〇パーセントなどという不自然なものも含まれていると思われる。また、右各調査事績報告書によれば、粗利益率の平均は約三〇パーセントであることが認められる上、中には粗利益率が高いと思われる工事もあるけれども、そのような工事はそれだけ儲けが多く、その結果多額の仮名預金等をすることができたものというべきである。
5 弁護人は、二6(一)の事実に沿う西本の検察官に対する各供述調書は信用できない旨主張する。
しかしながら、右各供述調書の内容は、前記二2ないし5、8及び9等の客観的事実とよく符号している。また、西本は、「国税局の査察のあった平成元年四月一八日の三日くらい前にも、虚偽の請求書を書くためのメモを書いた。」旨供述しているところ、右供述は、査察の際被告人方から押収された破損メモの存在とも符号している。さらに、西本は、「これまで一部虚偽の供述をしていたのは、被告人大髙から口裏合わせを要求され、被告人大髙が怖かったからであったが、今回は正直に話す。」旨自白に至る心情の変化を交えて供述しており、その内容も具体的、詳細かつ自然であって、これらの点に徴すると、十分信用できるというべきである。
6 弁護人は、定期預金証書五〇通(三億六〇〇〇万円余り)、金預かり証書三通(四五六〇万円余り)等は、大本から、「家を新築し、引っ越しするので預かってくれ。」と頼まれてこれを預かったため、たまたま査察当日被告人大髙方にあったに過ぎない旨主張する。
しかしながら、右預金証書等が被告人大髙方にあったのが大本から預かっていたためであるとしたら、右銀行預金等の出し入れも大本が関与しているのが通常であると思われるところ、前記二8のように、多額の仮名預金等の出し入れは被告人大髙が行い、大本がこれに関与した形跡がないのであって、この点理解し難いし、逆に、右預金証書等を被告人大髙が管理していたとすると、査察当日被告人大髙が慌てて右預金通帳等を長女の通学鞄に入れて持ち出させようとしたことは極めて自然であって、十分理解できる。加えて、被告人大髙は、捜査段階において、検察官に対し、右仮名、借名預金が協和しゅんせつ及び芳信建設に帰属し、これを自己が管理していたことを認め、さらに、第二回公判においても、この点については認めていたのであって、これらの点からすると、右定期預金証書等は、被告人大髙が管理していたものであり、弁護人の主張するように、大本から預かっていたため、たまたま査察当日被告人大髙方にあったものとは認められない。
7 弁護人は、大本は、逃走後約一〇日を経過した平成元年四月二七日付けで妻小春に宛て手紙を出し、その中で、蓄えた大金が自分のものであることを強調し、一部の金は関係者に渡して欲しい旨記載しており、また、逃走後約七〇日を経過した同年六月二六日付けで呉税務署宛てに手紙を出し、その中で同様の記載をしているところ、これらの手紙の存在は大本が多額の預金等を管理していることを示し、協和しゅんせつの下請けをしていたことを裏付けている旨主張する。
しかしながら、妻小春に対する手紙の中には、岡本幸男や新居勝俊に三〇〇〇万円を渡してほしい旨の記載があり、呉税務署長宛ての手紙の中にも同様の記載があるところ、岡本幸男の検察官に対する供述調書(九八)及び第八回公判調書中の新居勝俊の供述部分よれば、岡本幸男や新居勝俊と大本との間で、右のような約束をしていたことはないことが認められ、右事実からすると、右手紙の中には虚偽の記載があることになるから、これらの手紙の存在を根拠にして大本が多額の預金等を管理していたとは認められない。
8 以上のとおりであり、弁護人の主張はいずれも採用できず、その他の主張を考慮しても、本件各工事について、弁護人の主張するように協和しゅんせつあるいは芳信建設が大本に正当な請負代金を支払ったものとは認められない。
五 以上の次第であって、右二ないし四の諸点に前掲各証拠を総合すれば、判示各事実を認めるに十分である。
(法令の適用)
罰条
被告人株式会社協和しゅんせつ及び被告人株式会社芳信建設につき
いずれも法人法一六四条一項、一五九条
被告人大髙民朗につき
いずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下、「刑法」という。)六〇条、法人税法一五九条
刑種の選択
被告人大髙民朗の判示各罪につき、いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理
被告人株式会社協和しゅんせつ及び被告人株式会社芳信建設につき
いずれも刑法四五条前段、四八条二項
被告人大髙民朗につき
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入
被告人大髙民朗につき
刑法二一条
訴訟費用の負担
被告人株式会社協和しゅんせつ、被告人株式会社芳信建設及び被告人大髙民朗につき
いずれも刑訴法一八一条一項本文、一八二条
(量刑の理由)
本件は、判示のとおりの法人税法違反の事案であるところ、被告人大髙は、被告人株式会社協和しゅんせつ及び被告人株式会社芳信建設の業務に関し、架空経費を計上して合計四億五〇〇〇万円余りを脱税したものであって、その額は極めて多額である上、ほ脱率も高率であり、その犯罪態様も、会社の従業員を使って大本から虚偽の請求書を出させたり、大本への支払いを仮装するため小切手を振り出すなど組織的かつ巧妙で悪質である。また、被告人大髙は、高額の仮名預金等を設定するなど積極的に所得の秘匿工作をしているほか、罪証隠滅工作もしており、さらに、反省の情も認められないのであって、このような犯情に徴すると、被告人らの刑責には重いものがある。
しかしながら、被告人株式会社芳信建設においては、架空工事原価を一部認めて修正申告し、これを納付していること、被告人大髙にはこれまで前科前歴がないこと、被告人大髙の家庭の状況その他被告人らのために酌量すべき事情があるので、これらの事情その他諸般の情状を考慮すると、主文のとおりの量刑が相当である。
(公判出席検察官室田源太郎、同主任弁護人岡秀明、同弁護人古田隆規、同弁護人恵木尚、求刑・被告人株式会社協和しゅんせつ罰金一億円、被告人株式会社芳信建設罰金四〇〇〇万円、被告人大髙民朗懲役三年)
(裁判官 平弘行)